AⅠ上代(大和・奈良時代)(6)【懐風藻(漢詩集)】
今回で、上代は終了だよ。
文学史上、上代の始まりは何時かというと、口承(こうしょう)文学、伝承(でんしょう)文学といわれる期間があるので、はっきりさせることはできないね。
ただ、終わりは明確だ。桓武(かんむ)天皇が、都を平安京に移したときだ。
今から、約1200年前(794年)のことだね。
上代の終わりにあたって、ここでまたひとつ、ノーベル賞ものの話。
それは、外国語の漢文を、翻訳せずに直接、日本語にしたことだよ。
まず、外国語の漢字を直接、日本語として読み替えた。例えば「草」という漢字はもちろん中国語の発音はあるわけだけれど、それを「くさ」と日本語で読んだんだよ。
これを、君も知っているように、訓読みという。これは、驚くべき発想だね。
次に、当時の人々が持っていた日本語では、読み替えできない言葉については、中国式の発音をまねて読んだのだねえ。
例えば「国家」という言葉は「こっか」と外国語の発音に似せて読むことにした。
そして、それをそのまま、日本語として取り入れたんだ。
現在の僕たちが使っている言葉にも、こういうふうに外国語を取り入れた外来語が山ほどあるね。
「テーブルの上に物の置く」
なんてね。「テーブル」という言葉はもともと日本語じゃないよね。それを外国語の発音に似せて日本語として取り入れてしまったね。
これを、音読みというんだね。このことも知ってるよね。
それから、当然、漢文と日本語では単語の並べ方の順番が違うよね。そこで考え出したのが、外国語を日本語の順番にする記号だよ。
さまざまな返り点や熟語記号を使って、日本語の順番にしたんだからすごいよねえ。
膨大な漢字の組み合わせを、日本語の順番にするのだから、非常に複雑な読み方になってしまう。だから、漢文の白文をパソコンに打ち込めば、訓読できるように、返り点などが付くソフトはできていないのじゃないのかな。
まあ、そんなソフトを作ったって、あまり、お金にならないこともあって、開発に力を入れないこともあるだろうけどね。
コンピューターでもできないようなことを、上代の人々はやったんだよ。
さらにその上に、送り仮名や助詞まで考えて、外国語を直接日本語に読み替える方法を確立したんだよ。
現在、君が漢文の授業で習っている、書き下し文の形は、この時期には、ほぼ、できあがっていたんだよ。
これは間違いなくノーベル賞ものだよねえ。
こんな、漢文の自国語への変換方法は、当時の朝鮮半島にあった3韓(3つの韓の付く国)でも行われていたんだから、上代の人々は皆、賢いねぇ。
この漢文の日本語読みとは別に、外国語としての漢文ももちろん、遣唐使などを通じて盛んに勉強されていたよ。そして知識人は、中国語に深い理解を持っていたんだよ。
この当時の人々も、現在の君が英語を学ぶと同じように、漢文を外国語としてしっかりと勉強していたんだね。
そんな状況のなかから出てきたのが、わが国、最古の漢詩集だ。それが、
『懐風藻(かいふうそう)』これだ。
当時は、貴族や知識階級の間で、漢詩を作ることが、たいへん、流行していた時期なんだねえ。
『懐風藻』の内容は、入試に出ることはないので、
《わが国、最古の漢詩集である『懐風藻』》、とだけ覚えておればいいよ。
さあ、これで上代は終了。
次回から、かな文学の全盛期、中古の時代へ進もう。