AⅠ上代(大和・奈良時代)(4)【万葉集a】

ああ、ゴールデンウイークが終わってしまったね。
また、学校に通う日常に戻った。
日常というのは全く面白くないね。
だけど、日常に希望を見いだすこともできるはずだよ。
そうすれば、いつも楽しい人生になるだろうねえ。
 
ところで、文学史での年代の覚え方だけどさあ。
何年何月などと覚える必要はないよ。
日本史の試験ではないのだからね。
時々、
「日本書紀の成立したのは何年か」
などという問題を出したりする先生がいるけど、国語の文学史の試験に、こんな問題を出すなんて・・・。その先生は、やがて、生徒からソッポを向かれて、わびしい教師生活を送るだろうね。
 
文学史においては、年代は、およそ、どの時代のどのあたり、と覚えればいいのだよ。
その中で、作品と作品Bについて、どちらが古くて、どちらが新しいのかということはしっかりと押さえておく必要があるよ。
本稿では、基本的に、古い順に作品を出していくから、この順番で頭に入れておけばいいよ。
 
ところで、これから、さまざまな文学の流れを勉強していくけれども、それらにすべて共通している原理のようなものがあるんだよ。ここで、その大原理を頭に入れておこうかい。
それは、時の経過とともに、文学の内容がどのような変化を見せるのかと言う、変化の原理だね。

それを人間に当てはめて説明すると、次の3つの時期になるね。
 
1、 少年期 
ものごとが、生まれて元気よく伸びてゆく時期。
完成度は低いが、素朴で力強く、単純明快。
 
2、 壮年期
ものごとが、完成に向けて発展し充実していく時期。
完成度が高く、その文学主義が最も盛んに発展していく。
 
3、老年期
ものごとが、頂上を越えて、爛熟し腐っていく時期。
完成度は、頭打ちとなり、さまざまな技巧に走り、異様な世界を求めたりする。
やがて、流派として終了する。
 
ほとんどの文学の流れは、この3つの時期を通過して、生まれては、消えていくので、頭に入れておくと便利だよ。
 
それじゃ、万葉集について調べよう。もちろん、万葉集も、文学の流れの原理に従った変遷をしているよ。
万葉集は日本最古の、世界に誇れる歌集だね。
全部で4500首もの歌が書かれている。
膨大な量なので、何年にできたというよりも、年々に追加されて完成されていったという方がいいね。
今から1240年ほど前(771年)に、これほど文学的にも優れた、数量的にも膨大な歌集というのは、世界でも類を見ないのじゃないかな。
 
万葉集の中には、いろいろな歌体の歌が含まれているよ。
歌体というのは、五七五七七というような音数の組み合わせのことだね。
もちろん、最も多いのは、五七五七七の短歌形式だよ。全体の94%はこの歌体だね。

次に多いのは長歌(ちょうか)。
これにはいろいろあるけれど、大体、五七五七五七・・・五七七、というものだ。
これ以外の歌体もあるけれど、すべてに共通しているのは基本の音数が、五音と七音ということだね。
 
ここで、世界の七不思議の1つをお知らせしよう。
それは、人間の生命には、不思議なリズムが、備わっているのではないかということだよ。
そのリズムが五音、七音らしい。
だから、万葉集に限らず、世界の人間の言語の始まりは、五音、七音から出発しているようだね。

五音、七音は、人間の生命を活発にさせる働きを持っているに違いないね。
人間の生命そのものが、五音、七音から成り立っているのかもしれないよ。
このように、五音、七音という音数には、不思議な力が備わっているリズムといえるね。
 
試しにここで一度、君も、五音、七音で詩を書いてみよう。
何でもいいから、適当に言葉を探して、五七、五七、五七、五七七と続けて書いてみよう。
そしてそれを声を出して読んでごらん。
大変、素晴らしい作品になっただろう。どんな内容であったとしても、五音、七音で書いてゆくと、心に響く作品になっていくのが不思議だね。まさに、世界の七不思議だ。
 
音数の順が、今、君が書いたように五音の次に七音という順番は、始めの部分が音数が少なくて軽快感が出てくるよね。そして下の句が長くなり、安定感が出てくる。
全体的に、落ち着いて素朴な重量感のあるものになるねえ。
これを「五七調」というんだよ。
上代の人々の素朴な感情を表現するのに適した音感だったのだろうね。万葉集はこの「五七調」が多い。だから「万葉調」ともいうんだよ。
 
万葉調に対して、中古(平安時代)になると古今調というのが出てくるんだ。それは、七五調なんだけれど、今説明すると混乱するので、出て来た時に説明するよ。
 
ところで、万葉集の内容を分類すると、次の3つに分けることができるね。
これを部立(ぶだて)というんだよ。
 
1、雑歌(ぞうか)
これは、どうでもいい歌、という意味ではなくして、大切な歌だ。
旅をしたり、宴会を開いたり、天皇が旅行したときなど、優れたものが多いね。
 
2、相聞歌(そうもんか)
これは、人と人との関係を歌ったものだ。もちろん、90%以上は、夫婦や恋人の間のやりとりだね。
 
3、挽歌(ばんか)
これは、人の死に関する歌だよ。
 
また、収録されている歌の年代を見ると、630年ごろから収録されていて、最後は760年に至っているねえ。
約130年間の和歌が集められているのだから驚きだね。もちろん、何回も編集されているけれど、最終的に20巻にもなっているね。
わが国、最古の歌集だねえ。

作者も天皇から無名の庶民まで、多くの人々が登場するよ。
万葉集という名前の由来も、このあたりからきているね。「万」は非常に多い意味だ。年代も、歌の数も、歌人も、非常に多岐にわたっているから「万」とつけたんだね。そして、「葉」は「言葉=言(こと)の葉(は)」という意味だよ。
 
こんな膨大な歌集をいったい誰が編集したのか。
もちろん、一人ではできなかっただろうけれど、中心になった人物こそ、
 
《大伴家持(おおとものやかもち)》さん。この人だ。

大伴家持さんは、これまた非常に頭が良い人だねえ。
ワープロがあるわけでもなければ、プリンターもない。ただひたすら、手で書いてゆくんだよ。それも、まだカタカナやひらがなは確立されていない。1字1音の万葉仮名を書き続けていったのだから、頭が良いと共に、その忍耐力に頭が下がるね。
 
おそらく、万葉集の編纂(へんさん)にたずさわった人たちは、文字というものに、さまざまな情感を込めて表現するという、いわゆる、文学というものを歴史上初めて、本格的に作り上げていくことに、言い知れぬ喜びを感じていただろうね。
 
万葉集は、膨大な時の流れと歌の数なので、勉強するときは、普通、4期に分けて学んでいるんだよ。次から、その各期についてみていこう。